星組『眩耀の谷/Ray』宝塚大劇場他

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星組公演を大劇場で見たのはまだ日本が「これまでの生活」を送っていた2月13日のことでした。この日の帰りに阪急うめだのバレンタインフェアに行って,文字通りごった返す売り場であったのですが,なんか今となっては遠い昔のことのようですね。
結局,翌週には公演の休止が決まり,2枚目のチケットは文字通り紙切れになったわけで,感想の文字起こしもしないまま,時が流れたというか止まったというか…カレンダーは進んでるんだけど心は置いてけぼりだったんですよね。
なので今回,東京公演も開始されたので少しあの頃のことを振り返ってみたいと思います。

『眩耀の谷 ~舞い降りた新星~』

まずですね,当時の自分のTweetをさかのぼってみたんですが,アテガキにして過不足ない,謝先生の脚本を絶賛していました。

初脚本? ご冗談でしょう? みたいな完成度

よく,表現したいものを全部セリフにしてしまったり,それでも飽き足らずに独白入れてしまったり,何ならナレーション入れてまで説明してしまったり…と,伝えたい側が受け手を信頼しきれない本ってあるじゃないですか。具体的に何がとは言わないけれど,皆それぞれに「ああ,あの作品ね,くどいと思ってたんだよね」みたいなのがあると思います。…ありますよね? 私はあります。
ただ,解釈の余地を与えずに「自分が言いたいのはこれだ!!」っていう脚本家にとっては,観客に解釈を任せるのは不満であり不安なのもわかるので,まぁそれは好き好きだと思うんですけど…それでも「そこまで言わんでもわかるがな」みたいなのものね,やっぱりあるんですよ。
そういうのがそぎ落とされてる脚本だと感じました。

言わなくても「何となく」わかることはあえて言わない。

これって結構大事なことで,観客は「信頼されてる」と感じるし,舞台という尺の中で,余計な説明を省いたり,「何となくにおわせる」ことで追加の表現幅もできると思うんですよね。それがすごく絶妙だと感じました。

後は純粋に,先生の単語のチョイスが私好みで,こういう古典(というか時代もの)にありがちな教訓的な言い回しがさほど気にならないというか。
どうしても現代の道徳観念に無理やり当てはめて教訓的にしようとするとね…

ストーリーは貴種流離譚ベース

成り上がりではなく,もともと尊い血筋の人が艱難辛苦の果てに本来の立場に気づき,それを取り戻す…という,まぁ体系立てられた形のあるスタイルですが,少し気になったのは礼真が貴種ではあるものの「女系」であるということでした。
作中で女性を軽んじるセリフがあり,これは時代設定(紀元前なのでほぼファンタジーとはいえ,大陸文化として比較的連想しやすい儒教社会からの男尊女卑かな?)からしてまぁそんなもんか,と思ったのですが。男尊女卑の文化がある世界観で,貴種とはいえ女系男子がトップ(君主)に立って(男系女子(盲目)と一緒に)国を作っていく…という流れは少し腑に落ちないところがありました。

まぁファンタジーなんですけど。

それを言ってしまえば,ラスト,攻め込まれたときに「不思議な力を発揮して敵を追い払う」のではなく,漂泊民として新たな国を建てる場所を探す…という選択は苦肉の策のようにも思えました。「その時突然天から降り注いだ光が敵軍を云々」みたいなご都合展開にはしないものの,そういうご都合展開がなければ現状を打破することはできないので(礼真は弱くもないけど項羽のように一騎当千でもない),そうなると多少不自然でも流転するしかないのかなぁ…
ご都合主義といえば, 瞳花の目は結局見えないままで終わったのだろうな,というあたりもこだわりを感じました。ストレス性の失明であろうという描写であったので,突然「目が見えるわ!」とかやろうとしてやれなくもなかっただろうに,それをしない潔さに好感が持てます。
いや,よくよく見たらラストシーンではしっかり視線が動いていて,実は見えるようになってたとかでもいいんですけど。個人的に大事なのは「見えるわ!」っていう場面を入れなかったことです。引き算大事。

中継映像で見ていてもやっぱり礼真は瞳華の手を取って導いているので,結局「あなたの顔が見たい」は実現していないのではないかな,と思いました。お披露目ファンタジーなのにこういうとこシビアね。

主要キャスト感想

丹礼真(礼真琴)

冒頭の何も知らないキラッキラした若造(マジで愛ちゃんを見る目が妄信にしか見えないし,見られた側の愛ちゃんも目をそらしてる)が,自分の足で立って,自分の頭で考えて,でもやっぱり根が甘ちゃんというか,育ちがいい(悪い意味で)から迷って,裏切りにもあって,でも自分のあるべき場所を決めて「ここから成長していくんだ」っていうキャラクターでした。
そして成長した先が,あのラストシーンなわけで。
お披露目公演として「一緒に成長し,形作っていくんだ」という立ち位置を感じました。引っ張っていくのではなく,ともに歩んでいくスタイル。年若いトップスターさんなので,イイと思います,そういうスタンスで。

瞳花(舞空瞳)

ムラで見た時と一番雰囲気違うな…? って中継見てて感じました。いい意味で気負いも抜けて,舞踊(あえての舞踊)が際立ってたと感じました。
というかショーでのひっとんがすんごい生き生きしているので,生き生き踊ってハッピーエンドなコミカルな演目見たいなぁとすんごい思うのですが次はロミジュリでしたね…踊るは踊るけど悲恋か…。

管武将軍(愛月ひかる)

愛ちゃんの役も,初登場はさわやかというか,軍人らしい一本筋の通った良い軍人かと思ったし,もっと宝塚ナイズされたいい人に描くことも出来たのに(例えば途中で暗愚な王を見限って反旗を翻したり),あっさり自分の足手纏いになる子供を殺す残酷さであったり,がじわじわ出てくるのも脚本の妙だなぁ…と感じました。
まぁ最初の礼真との邂逅場面で目をそらしたりしてるからあの時点ではうしろめたさも併せ持ってたのかな,とも思いますが。

謎の男 (瀬央ゆりあ)

せおっち,謎の男(実は瞳花の兄)っていう難しい役柄を演じていて,ムラで見たより,中継で見た東京のほうがずっとよかったです。ムラは背伸びしてる感じがあって,年齢不詳だったし。 あと,この本当の役柄を最後まで公演プログラムにも載せないあたり,こだわりが強い…だがそれがいい…
礼真に「その重圧に耐えられるか」と問いかけるのがなんていうかほんと,お披露目らしいセリフだと思いました。

その他雑多に思ったこととか

裏切る天寿光希と裏切らない大輝真琴。
まぁどっちか裏切らせるならみっきーやんな,って納得させられてしまうまいけるのいい人オーラというか,同時に幸薄そうなオーラというか。…って思ったけどサンファンではまいけるガチ悪人やったわそういえば。

はることほのかちゃんの姉妹,姉妹だけど打算丸出しなところがいいわぁ…ほのかちゃんは声も奇麗だし,モーツァルトでも思ったんだけどこういう,純粋なオンナノコよりもちゃんと打算できる女性役,いいよね。

『Ray -星の光線-』

宝塚で見た時は特に思わなかったのですが,後々見た方々の「どことなくだんしんふぉーゆー」というのを見かけてから見ると…確かに全然違うんだけど何かに通ったところを感じる…確かに同じ中村先生のショーではあるけれど,それ以上に…歌詞に出てくる言葉のチョイスかな? 言われれば確かに主題歌の雰囲気が似ている。

全部飛ばしてフィナーレの話なんですが,この公演を最後に柚長が専科に異動されるので,せおっちとの銀橋でのやり取りがなんていうか,「坊やだったのに立派になったのね」みたいなのがにじみでていたと思います。
また,中詰めだったか…銀橋でみつるさんに目を奪われているひっとんをグイっと抱き寄せることちゃんもすごくいいと思います。とても距離感の近いトップコンビというか,ほんとにナチュラルな恋人感が出せる二人だと思うので,

東京ではお芝居もショーも下級生の人数を半分に減らしているということで,場面場面ではそんなに気になる…というか気になりすぎることもなかったのですが(それだけみんな2割増しくらいで踊ってる),ロケットの場面では一気に…少ないのが目立ちますね…。

あと,ショーの中継だとさすがにスパンのお衣装で(そして礼真琴のキレで)踊られると画面がちらつきますね…とはいえ,映画館で見ているよりは自宅のテレビのほうがずっと画素数高いというか,ドット詰まっているので見やすいのですが。

そんなことをつらつら書いているうちに,8/2の花組大劇場公演の中止が発表されました。完売している公演で,演者に限らず関係者(おそらく優に100人を超える)の中から体調不良者(まだ感染者という発表ではないだけかも?)が出ただけで,迅速に中止判断を出すということは,あらかじめそのように取り決めがなされていたのでしょう。
今日,観劇予定であった方は残念なんて単純な言葉では言い表せないでしょうし,他人が何を言っても何の慰めにもならないと思います。ただ,今後も宝塚歌劇団が同様の(高いレベルの)危機管理を続けていく限りはいつ,どの劇場で,どの演目で同じことが起こるかわかりません。
劇団が経営的に痛手を被ることよりも感染拡大防止に(予想以上に)大きくウエイトを置いていることが明らかになったことで,見に行く側も体調管理を万全にし,チケットがもったいない…と言わずに「見に行かない」という選択をする必要があるのだと突き付けられた気分です。せっかくのチケットなのに…って思う気持ちはもちろんあるけれど,劇団の覚悟を自分の目先の欲で妨げていいのか,と思うと…心も懐も痛むけれど,憎むべきはウイルスなのもわかっているけれど…やりきれない気持ちが正直なところです。
リセール制度はあるものの,前もってわかってないと前日や当日では結局フイにするしかないんですよね。まぁその時点でのリセールとか無理があるのもわかってるのでそこはもう何とも仕様がないのですが。

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